老いたり!


 サッカーの審判のライセンスを取ろうということになりました。 4級審判を取るには、筆記試験に加え、1500mを7分以内で走らなくてはなりません。 といっても、たかだか1キロ半です。 駅から家まで2キロ以上あるし、酔っぱらって終電を逃したときなんかはタクシー代惜しさに8キロ以上歩いたりします。 せいぜい1キロ半です。 7分ということは100mを28秒ペース。 マラソンのトップランナーなら100mを20秒未満のペースで42.195キロ踏破するのですから、実にローペース、急ぎ目のジョギングといったところでしょう。 で、試しに先日走ってみたら、1キロを約4分で走れることが分かりました。 このままいけば1キロ半は6分ですから合格間違いなし............のはずですが、その日は1キロで息絶えてしまったのでした。 老いたり!
 オヤジが定年して数年経ちます。 オフクロと違って、オヤジは時々アドバイザーとして幾つかの会社に顔は出すものの、あまり飛び回りません。 昨年ちょっと病気をして手術なんぞをやり、最近も医者通いなんぞをやっている関係で、 心身ともに全快とはいかないようです。 そのオヤジも先日は孫にせがまれて、城ヶ島まで釣りに出かけました。 オヤジの若い頃の趣味は登山であったようですが、40過ぎた頃からは釣りに転向し、現役会社員のころは休みと見れば釣り、夕方出かけては釣り、防波堤で仮睡眠とっては明け方からまた釣り、台風で釣り船が30度傾いて船頭が酔っぱらっても釣り、兎に角釣り。 にもかかわらず、ここ数年は滅多に釣りにも出かけていない様子、オヤジも老いたかなと思っておりました。 それが久々の釣りとなると、これはびっくり、2メートル近い防波堤にもヒョイと飛び乗る身の軽さで、日が落ちるころも疲れ知らず、帰宅した足で釣果を捌く余裕。 女の人はお菓子を入れるための胃がもう一つあるなんて言いますが、男には遊びのための心臓がもう一つあるということでしょうか。
 姉が中学生くらいののとき、「ミュージックライフ」という音楽雑誌にはベイシティーローラーズだとかクイーンなんかのグラビアが載っていました。 僕は子供心に、その虚飾(それらのバンドがそうだというわけではありません。フレディーなんて最高じゃん)には目を背けるものがあると思いました。 自分は後に「プレイヤー」だとか「ギターマガジン」なんて雑誌を読むようになりましたが、グラビアは殆ど見ないで興味のある記事を摘み食いし、後は楽器広告のウインドウショッピングという感じでした。
 このエッセイでもちょっと触れた吾妻光良さんが連載されていたブルースギター講座なんか最高でしたね。 吾妻さんが矢野顕子さんにインタビューしている記事も面白かった。 吾妻さん:「あれいいですね、あのハイホー節」、 矢野さん:「あれホーハイ節って言うんですけど...」みたいな。
 ジェフ・ベックのインタビュー記事(多分米国の“Guitar Player”の取材でしょうね)も面白かった。 記者:「最近の若いギタリストをどう思いますか?ヴァン・ヘイレンとか」、 ジェフ:「いいんじゃないの」、 記者:「ところで貴方は大のカーマニアでスポーツカーを何台も持ってられるとか」、 ジェフ:「ああ、そうなんだ、よく知っているね」、 …《中略》…、 記者:「貴方は気が短いと聞いて覚悟して来たんですが、こうやってお話を伺っているととてもそうは見えません。いったいどうやったら貴方を怒らせることが出来るんですか?」、 ジェフ:「例えばヴァン・ヘイレンの話をするとか...」 みたいな。
 しかし最近はとんと読まなくなりました。 本屋で見かけることがありますが、表紙の絵を見ただけでゾッとします。 以前は興味がないというだけのグラビアが、最近では恥ずかしく思えてきたんです。 電車の中でヌード雑誌を広げているというような恥ずかしさじゃなくて、ラッパーの格好をして小学校の同窓会に出かけるような恥ずかしさです。 思わず「君達のやっていることは正に音楽だ、僕は別のことをやってるんだけどね」というスタンスをとってしまいます。 これはあまり褒められたことではないのでしょうけれどね。

--- 30.Sep.1997 Naoki


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