和製ロック?


 うちのバンドのルーツを遡ると、「スパズロ」というバンドに辿り着きます。 オリジナルメンバーは、僕の他に、Vocal(現:雑誌編集者)、Guitar(現:国家公務員)、Bass(現:音楽プロダクション・マネージャ)、Drums(現:ドラムプレーヤー)、そしてPercussion(現:パーカッションプレーヤー)でした。 これといった活躍もなくこの世を去ったバンドでしたが、音楽的には現在のバンド活動に余韻を残す、ひとつの核となるコンセプトがありました。 それは、和製ロックとでもいうべきものでした。
 和製ロックと聞いて先ず連想されるのは、成毛滋、つのだひろ、高中正義の三氏からなる「フライドエッグ」でしょう。 主に、エリック・クラプトン、ジンジャー・ベーカー、ジャック・ブルースによる伝説的ロックバンド「クリーム」を踏み台としたような音楽でした。 当時人気の高かった「ハッピーエンド」や「センチメンタルシティーロマンス」などとはちょっと趣が違うのです。 何が違うと言われて説明できるものではないんですが、思いっきり無責任に言わせて貰えば、「ハッピーエンド」の場合にはたまたま電気楽器やドラムセットを使ったかも知れないが、「フライドエッグ」はそれでないと成り立たなかったっていうか、そのくらい「ロック的」であったわけです。 僕の狭量な辞書の中の和製ロックには、「ピンク・フロイド」を彷彿とさせた「四人囃子」、ブリティッシュ・ロック的サウンドをベースとした「カルメン・マキ&OZ」、独特の歌世界を作っていた「あんぜんバンド」などが含まれます。 英語で唄っていた「クリエーション」や、R&Bの「ローラーコースター」や、R&Rの「キャロル」などは、ちょっとやっぱり趣が違うんです。
 で、「スパズロ」は、何だか分からないけど和製ロックの類でありました。 そのくせ過去の遺産を食い潰すのはやめようというか、既存のスタイルに甘んじるのはどうしたものかという姿勢があり、この辺りはちょっと毛色の違うところでした。 ちょうど1980年頃のバンドですから、パンクが出た後で、外国のメジャーなロックバンドの真似をする雰囲気ではなかったし、既に下火になっていた和製ロックにそのまま追従するわけにもいかなかったんですね。 下支えとなるバックグラウンドのない音楽でしたから、そりゃあ褒められたことはできなかったんですが、逆にそれが自分たちの音楽の正直な実体だと自負していました。
 そういった状況ですから、偶然にも「スーパースランプ」、「サンセットキッズ」、「オレンジチューブ」といった当時のライバルバンド達は、どれも似たような脆弱性と急進性を併せ持っていました。 この手のバンドの申し子達は、各々それなりの成功を収めてきたように思います。 「スーパースランプ」は今の「爆風スランプ」の核となっていますし、「サンセットキッズ」は現在でも活動を続けていると聞きます。
 一方、高い技術に裏打ちされた演奏で知られた「ピンク」もまた、このような音楽的傾向の一端を担っていたように思われます。 少なくとも、そういう流れの中にあったのだろうと思います。 というのは、「スパズロ」の傾向をダイレクトに受け継いでいる「ゲシュタルト」の音楽を聴いて「ピンク」を連想する方が何人かいらっしゃるということを知ったからなのです。 確かに、「ピンク」のメンバーの一人は「スパズロ」出身者でした。 僕も、彼らに会ったことがありますし、一度レコードを聞かせてもらったこともあります。 しかし、彼らに影響を受けた記憶もありませんし、正直なところ1曲も覚えていません。 ですから、もし似ているところがあるとすれば、それは偶然というか、たまたま同じ流れを経験したからという説明しかできないわけです。
 あれから十数年もの時間が経過したわけですから、世の中も変わり、巷の音楽的嗜好も変わり果てたと思われます。 しかし、「スパズロ」のエッセンスは今も「ゲシュタルト」に息づいています。 ですから、あの脆弱性と急進性は、一種の普遍性を孕んでいたのであろうと今更ながら感じます。
 「ピンク」の中心的存在であったホッピー神山やスティーブ衛藤は、「ゲシュタルト」とは全く異なり、メジャー第一線の活躍を続けています。 最近では「PUGS」というバンドを組んでいて、ちょうどいま米国ツアー中です。 日本では殆ど知られていない「PUGS」ですが、集まったメンバーは(性格的欠陥はともかく)日本のミュージックシーン屈指の音楽性と実力を勝ち得た人ばかりです。 ですから、米国では相当な人気と熱狂を獲得したようで、僕の知る限りでもつい数日前にはヒットチャートの161位からいきなり25位まで飛び上がっています。 別段、米国デビューのための工作をしたわけではなく、正に実力だけで受け入れられた例と言えます。 「ゲシュタルト」と何ら関係のない彼らですが、同じ時代の同じ流れを渡った者達が、日本のバンド、言い換えれば(語弊はありますが)和製ロックとして成功しているという話を聞くと、思わず賞賛の拍手を送ってしまうのであります。
--- 3.Apr.1997 Naoki


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