帰ってきたスーパースランプ

 一世代というと、約30年なんだそうです。 生まれ落ちて成人し、世の中に関与し始めて子どもを授かるまでがまぁまぁ30年。 その子が30歳になって孫が、孫が30歳になって、というふうに連鎖していくならば、一世代はだいたい30年。 ですから、「失われた30年」なんてのは、なんとも罪深いんですね。 「失われた一世代」ということになりますから。 その失われた一世代こそ、まさしく自分の30〜60歳に相当するんですから、いやぁ罪深い、実に罪深いわけです。

 さて、春分の日の真昼間、大塚の "Welcome Back" という小さなハコで、「帰ってきたスーパースランプ」と題したライブが決行されました。 「スーパースランプ」は、1981年に行われたヤマハの "East West" というコンテストで準優勝したバンドです。 優勝は「爆風銃(バップガン)」、もう一つの準優勝は「サンセットキッズ」というバンド。 賞に漏れたバンドの中に「オレンヂチューブ」や「スパズロ」がいました。 上記は、もちろん各々個別のバンドですが、非常に近しい関係があったんですね。 例えば「サンセットキッズ」と「スパズロ」は、東京にある同じ大学サークルのバンドで、メンバー2名が被っていました。 そして「スーパースランプ」と「オレンヂチューブ」は、千葉県柏市にある同じ中学、高校といった辺りから発生したんです。 「スーパースランプ」のリーダー豊岡正志はもとより、ベーシストで劇作家の堀切和雅、以前このエッセイでもご紹介した今は亡きドラマーの丸山雄一ほか、両方のバンドに携わっていたメンバーが何名かいました。

 その「スーパースランプ」が、実に約30年ぶりのライブを行ったわけです。 正直を言うと、そんなに期待はしていませんでした。 ずっとバンド活動を継続して来たわけではありませんし、もう若い頃の体力も瞬発力もないでしょうから、昔懐かしい曲を再現するのが精一杯だろうなどという予想も決して不自然とは言い切れないはず。 ところが、この「復活ライブ」は想像を遥かに超えていました。 きっと動画やなんかがYouTube等に上がるでしょうから、確認されると良いでしょう。 なので、細々とした解説や評論をシタタメる気は毛頭ありません。 ただ、備忘録として書き留めておきたいわけです。

 決して派手な衣装や大道具が投入されたわけではありません。 演奏そのものが圧巻だったわけです。 そのサウンドとステージパフォーマンスにワクワクし、没入させてくれるライブでした。 歌そのものは昔のまま。 単純明快なぶん、余白を投げつけてくるような歌詞。 昨今は理屈っぽい自己主張型のポップスが全盛ですが、彼らはその歌の意味や価値を完全に聞き手に委ねます。 言い換えれば、聞き手をリスペクトし、信頼し、身を委ねるような演奏。 それが大きな共感を呼び起こし、うねりとなって会場にフィードバックされていました。 しかも、40年も昔の曲が一周回って(豊岡くん曰く二、三周回って)見事に現代へ着地し、時代を超え、聞く者の世代を超えてグサリと突き刺さる。 ある意味、絶頂期の演奏よりも豊かで、むしろ迫力を感じたことを吐露せずにはいられません。

 ジョニ・ミッチェルの名曲 "Both Sides Now" をご存知でしょうか。1969年の弾き語りは初々しく、華があり、天使のような歌声でした。 それから約30年後、オーケストラをバックにした2000年の演奏になると、キーはオクターブほども下がりましたが、奥深く、魅力的で、驚くような広がりに感動させられます。 これと昨日のライブを比較するのは安易に過ぎるかもしれませんが、やっぱり人ですから、同じように何らかの発酵、熟成があるんですね。 ジョニ・ミッチェルは、その後も人前でこの歌を披露しています。 2022年のそれは、よリ枯れた歌声ながら、却ってスケールが大きなものに感じられました。 今年、2024年のそれは、サポートする若いミュージシャン達の中で一層の輝きを湛え、これぞ豊穣という印象を受けました。 歌は、生きものなのですね。

 豊岡くんのベースには早逝した3人のメンバー、大島和彦、金子周平、そして丸山雄一の名前が書き込まれていました。 「これが最後になってもおかしくないんだから」と嘯いたボーカルの東畑くんのMCを、単なる冗談と受け止めることはできません。 ならばこそ、更なる「スーパースランプ」の怪演(快演)を期待しつつ、自分もジョイントできるように頑張らんといかん、などと感じた休日でした。



左から、Kb.田中詞崇、Bs.豊岡正志、Vo.東畑耕作、Ds.小泉美雄、
数ヶ月ほど前に加入した若手(とは言っても50代)のGt.熊谷要司


左から、オレンヂチューブのノンくん、ナオキ、小泉くん、豊岡くん
旧スパズロ→旧サンセットキッズ→現オレンヂチューブのヤスヲくん

--- 2024/3/21 Naoki
--- 2024/4/22 (revised)



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