今年、エッセイにしたいことは数多ありました。
凋落日本の病状や、世界で起きている災厄については、話題の列挙にいとまがありません。
生物と意識と意志の関係、10代から引き摺ってきた話題に関しても様々な気づきがありました。
信頼と効率化という人間の家畜化に関する問題なぞ、それだけで書籍になりそうなほどです。
が、そのようなことのために文字を連ねられるかというと、今は亡き昭和の大横綱千代の富士関の言葉を拝借すれば、気力も体力も逸してしまいました。
ただ、このことは書き留めておこうとパソコンに向かったわけであります。
あ、長州弁は如何なものかということなら、そういうわけでごわす。
はい、セカンドアルバムを制作しました。
ギターパートだけなら3ヶ月ほどで録音できましたけれど、完成にはほぼ2年を要しました。
その間の細かい出来事を書き連ねればキリが無いのですが、特に書き留めておきたいのは貴重なメンバーの存在とキーパーソンとの出会いです。
貴重なメンバーの中でも、マネジメントやプロデュースにまで協力してくれたのが、森山悦子さんというベーシスト。
大学の遠い後輩にあたるのですが、本来は面識がなく、ファーストアルバムを手がけた頃と彼女がベース活動を本格化し始めたタイミングが一致したのが縁。
出版業界ではちょっとした有名人ですが、ベーシストとしては駆け出しで、煙が出るほどの急成長を遂げ、惚れ惚れするようなグルーブを奏でる相棒の一人になりました。貴重なキーパーソンというのは、先ず、久保田由希さんとキーツマン智香さんのお二方。
この方々が写真撮影し、著作・出版された「給水塔」という冊子がセカンドアルバムの原動力になりました。
久保田さんも、大学の遠い遠い後輩で、やはり面識は皆無だったのですが、流石はかの久保田早紀さんの姪御さん、天使の歌声をお持ちで、レコ発がてらのライブに飛び入りしてくださいました。
更にもう一方、フォトグラファーの西辻奈緒さんが、それら給水塔の写真を題材に素敵なジャケットを仕上げてくださいました。
蛇足させて頂くなら、僕は奈良の学園前という地域にある小学校へ通ってたんですね。
半世紀以上昔の話です。
古都奈良にあっても、この地域は新興住宅地で、他県に違わず団地郡が建設されていました。
そういう時代です。
その小学校では、おそらく3月初旬頃ではなかったかと思うのだけれど、全校のマラソン大会が催されていました。
奈良盆地は暑くて寒い所で、夏は灼熱と夕立のオンパレード、冬は痛いほど凍てつき雪も降ります。
早春ともなると、だらしなく溶け出した雪に濡れた黒い部分と日に照らされて白く乾いた部分のある雨上がりのような道になっている、これを延々と走るわけです。
子どもにとって苦役と言えば苦役なのですけれども、完走後に振る舞われる温かい甘茶(焙じ茶に砂糖を溶かしたようなもの)は魅力でした。
そして、僕にはもう一つ楽しみがあったんです。
整然と並ぶ団地群に忽然と現れる給水塔です。
昨今のようにマンションの屋上に据えられたタンク状のコンポーネントではなく、自立した建造物、団地の屋上より頭一つ二つ突き出た背の高い大きな塔です。
平場に立っているものもありますが、遠目には丘の中腹などに不思議な佇まいを見せていました。
マラソン大会では、それら幾つかの給水塔の足下を否応なく通過しなくてはなりません。
濡れたアスファルトに映る雲の鏡像を正面に見据え弾力のある冷えた空気を呼吸しながら只々走り続けるだけなのですが、普段は遠目にしか見ることのできなかった異形の塔に会いに行く興奮のようなものが何となく背中を押していたように思い出されます。
--- 2022/12/28 Naoki
橋本直樹 Vocal, Guitar, Drums (1,2,3,6)
森山悦子 Bass
江藤直子 Piano (2,5,8)
堤 研一 Synthesizer (6,7)
小島達也 Drums (7,8)
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