水商売?
バンド活動の次期ボーカル候補がいます。
輿石という若い女性ですが、この娘、元々は音楽畑ではない。
非凡な才能が、ゴールドメダリスト鈴木大地選手のコーチの目に留まり、幼い頃から競泳選手として育てられ活躍してきた人です。
つい数年前までは、女子背泳50m、100m、及び200mの日本タイトルと日本記録の保持者でした。
しかし、詳しくは知りませんが、故障などに泣かされ、オリンピックに出場することなく引退してしまった様子です。
そんな彼女の心を癒してきたのが音楽であったのでしょうか、現在は勤めながら作詞家兼歌手として活動を続けているようです。
つい昨日、彼女と息子と三人でプールに行きました。
「バサロ(背泳のスタートで水に潜ったまま進む泳法)が見たい」とリクエストしたけれど、「ここじゃ狭すぎるよ」とのこと。
そりゃそうだ、彼女がバサロスタートから浮上するのは40m付近、プールは25mしかないのですから。
その代わり、他の人達にぶつからないよう、幾つかの泳法でゆっくりと泳いで見せてくれました。
殆ど足を使っていません。
時折一蹴り入れると、体が水に乗ってガーッと数メートル進みます。
ゆっくり流しているだけなのに、何やら殺気のような迫力がある。
もしあのまま足をバタバタさせたらどんなことになってしまうのか、想像しただけで「恐ろしい」ような雰囲気があるわけです。
可愛い娘さんにこんな言い方は失礼かと思いますが、プールに海獣が迷い込んだといった風情でした。
僕は息子にギターを教えていません。
ああいうものは若い内からやったほうが良いに決まっているのですが、身体が資本と考えれば、むしろスポーツに興じることを奨励しています。
逆に、輿石さんは「自分に子供ができてもスポーツはやらせたくない」と言います。
「自分の子供ならきっとのめり込んでしまうだろうと思う。けど、自分が経験してきたような苦しみを味わって欲しくない」ということのようです。
どんな道でも、本気で取り組んでしまえば、精神的・肉体的な苦渋と犠牲を強いられるものです。
そういったものは本人の意志と選択に基づくべきで、英才教育を否定する気は毛頭ありませんが、耐えるべき苦しみは自分で見つけて欲しいという、一見個人尊重のようでもあり、角度を変えれば庇護主義的な欲求がなきにしもあらずですね。
彼女は音楽に活路を求め、一方僕はスポーツに癒しを求めている、そんな逆説的な共通点を見出した週末でした。
かつて、大学の音楽クラブに藤村という女性がいました。
一度だけ彼女とライブをやったことがありますが、理想的なボーカルでした。
とても歌が上手くチャーミングであったため、幾つかのプロモーターから誘いもあったようです。
しかし彼女はプロモーションを断って、結婚し、今ではいいお母さんになっているようです。
当時、彼女に何のアルバイトをしているのか訊くと、「子供相手に裸になって水商売」という返答でした。
目を白黒させていると、「だからスイミングスクールの先生よ」と教えてもらってホッとした記憶があります。
偶然、輿石さんの出身地がその藤村さんと同じ町だということを知り、尋ねてみると、「子供の頃は藤村先生って人に習ってたよ。色が白くて美形の女の人だった」とのこと。
「色が白い」はひっかかるけど、もしそうだとしたら、これは大変な巡り合わせだと思います。
--- 23.Jan.1998 Naoki