くるま


 サックスの花田君がホームページを作ったと聞き、早速覗いてみました。 音楽のページかと思いきや、コンテンツは彼の愛車紹介でした。 自家用車には誰しも気持ちが入ってしまうものですね。 車のことや、運転のことや、教習所での体験談のことなら話が尽きないのは彼や僕だけではないでしょう。
 人から聞いた車に関する逸話で最高に笑ったのを一つだけ紹介しておきましょうか。 会社の同僚のK君が上司から貰い受けた中古の赤いハッチバックのお話。 雨の日、彼が信号待ちしていると、後ろに付いた車はアベックだったんだって。 ウインドウガラスは水滴でモヤモヤしてるんだけど、アベックが何やらイチャイチャしているのがわかる。 K君としては大変面白くなかったそうです。 で、どんな奴らかはっきり見てやろうと後部ワイパーを作動させてバックミラーを見た。 しかし、ワイパーはウインドウを一掻きして視界から消えてしまった???。 何が起こったのかわからないが、取り敢えず信号が青になったので発信。 後ろの車を見ると、何やら大笑いしながら付いてくる。 運転手なんかハンドルを叩きながら大笑いしているのだそうです。 不安になったK君が本線を逸れ車を止めて降りてみると、ネジでも緩んでいたのか後部ワイパーが垂れ下がり、下のナンバープレートを掃いてたんですって。 そんな光景、アベックに大ウケするのも無理はないね。
 最近K君は大変高級な新車のスポーツカーに乗っています。 ですが、きっとこのハッチバックの思い出は忘れないでしょうね。 何十年も前、うちのオヤジが初めて買った車は小さなセダンでしたが、遠出した帰りにエン故して、夜の街道を一家4人で押して帰った記憶があります。 その時は酷いと思いましたが、今となってはなんだか素敵な体験だったように思います。 車は速くて、安全で、格好良くて、便利が良いに決まっているのですが、思い出すのは何故かこういうトラブルのことばかりですね。
 僕が初めて買った車は青いハッチバックでしたが、アンプ3台、ギター類、鍵盤類、その他諸々1ステージ分の機材を積め込んで路肩に一晩停めておいたらサスペンションがイカレてしまいました。 強化しようと某社のサスペンションに代えたらガッチガチになって、後部座席でオヤジがシートを押さえて体を支えながら「この車えらい揺れよるなぁ」と呆れていたのを思い出します。 でも可愛かったですよ。
 ターボ車に乗っていたこともありますが、手を加え過ぎて、首都高速の真ん中でエグゾーストマニュホールドというパイプが破裂しましてね、3000回転より下がるとエンストするのでブンブン言わせながらモクモクと黒煙を上げて尺取り虫のように家まで帰ったことがあります。 それまで乗っていた軽いFF(エンジン前置きの前輪駆動)車と勝手が違い、車輪を逆回転させながら雪の坂道を滑り落ちていったこともありますし、出先でレギュレーター(発電器)が壊れ、一晩開かして始発で帰ったこともあります。 思い出したら切りがないけど、其奴のことも忘れませんね。
 他にファイブドアやステーションワゴンにも乗っていたことがありますが、それらは優等生でした。 僕は相当気に入ってたのですが、何故かどれも3年程で手放してしまいましたね。 まったくどれも衝動のように買い換えてしまいました。 優等生には優等生なりの思い出があります。 それは素晴らしい思い出ばかりです。 窓の外の景色が後ろに流れるように、時も留まってはいません。 車というのは、時空の乗り物ですね。
 今はミニバンのような車に乗ってます。 運転席から後部座席に歩いて通れるようになっているのが気に入ってるのですが、お陰でコラムオートマ、つまり運転席の横ではなくハンドルの脇にシフトレバーがついてましてね。 マニュアル車(レバーをガチャガチャやりながら走るタイプ)に乗ってた頃ほど触るものじゃないんですけど、いざというときにワイパーを出してみたり、オヤジのセダンに乗った後だと逆に後部座席の通路へ手をやって空を切ってみたり、たまにやっちゃいますねこれが。 ディーラーの人が「見本に貸して欲しい」と言うくらい、ありとあらゆるオプションを付けましたけれど、走ってる分にはやっぱり普通の車です。 今まで乗っていた車と大きく違うところは、中で楽器を出して練習できるところですね。
 でも、スタジオ練習を恋しく思うこともあります。 あの頃はメンバーの送迎車役も買って出てましたから、大塚で練習したあと横浜の上大岡に寄ってから町田方面へ帰るとか、池袋で練習したあと川越方面〜越谷方面〜錦糸町方面と回って横浜へ帰るとか、毎晩関東一円旅行のようなことをやってました。 でも楽しかった。 仲間がいるというのは、やっぱり楽しいもんです。 ここ何年来、何台か車を連ねて遠出をするということもありませんしね。 車を運転すること自体も、もう20万キロは乗ってますから、それほどわくわくするものではなくなりました。 車が楽しかった頃というのは、或る意味で充実していたように思います。 さて、バイクでも始めるかな。

--- 13.Nov.1997 Naoki


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