昔、夜遊び友達のスイカ男と、丘の上から根岸の石油コンビナートを見下ろしていたとき、彼が「おい」と話かけて来ました。
「おまえ、科学の最大の発明って何だと思う?」
「さぁ、ロケットかなぁ、何だろうなぁ‥」
「違うね、俺は照明だと思う。そう思わないか?」
「そうかなぁ」と僕は思いました。
白熱灯はもちろん、蛍光灯にしたって、それほど複雑なメカニズムを持っているわけではありません。
そもそも人類が火を利用するようになったのは太古の昔であり、最も原始的な科学的道具の一つと言えるのではないでしょうか。
「俺はこういう夜景を見ているとつくづくそう思うよ」とスイカ男は言葉を加えました。
「もし宇宙人が宇宙からこの星を見たら、きっと驚くんじゃないか?」
東大かどっかの博士(お名前忘れてしまいました)によると、「現代人にとっての最大の不幸は、夜の闇がなくなったこと」なんだそうです。
どういうこっちゃ?というと、ちょっと前まで、冬なんか6時にもなれば月夜以外は真っ暗だった。
じゃあ昔の人は寝たのかというと、やっぱり寝なかったんですね。
起きていたんですよ、暗闇の中で。
そんなとき、きっとその日のことを振り返ったでしょう。
「今日は楽しかったなぁ」とか、「明日こうしようかなぁ」とか、「俺ってすぐカッとなっちゃうから良くないなぁ」とか、自分を振り返る時間があったそうです。
現代では、街灯にせよ窓明かりにせよ車のヘッドライトにせよ夜の街は光で溢れていますし、部屋に帰れば照明はもちろんテレビやパソコンなどの情報にも満たされています。
だから、テレビを見て、眠くなってきたらテレビを消して、灯りを消して、寝ます。
そして、明るくなったら、起きます。
博士は、それが「現代人の最大の不幸」であるとおっしゃっていたわけです。
以前ラジオで、生涯賭けてアホウドリの研究をしている人の談話を聞きました。
年に幾度か、鳥島だとか何島だとか、そういう断崖絶壁に囲まれた南海の孤島に赴き、そこに寝泊まりして研究をするのだそうです。
彼が初めて孤島の夜を迎えたとき、驚いたのは夜の暗さではなく、「星の明るさ」だったそうです。
夕日が沈むときなど、水平線から岸に向かって、なんか呼び名があったかな、光の道のようなものができますよね。
星もそういう光の道を作るんだそうです。
僕は見たことがない、見えないですよね、周りが明るすぎて。
明るいから見えないっていうものも、あるんだと思います。